ほう、を日常に。評論サークルSORAのtsubasaです。

労働相談員を体験しました

今年(2014年)の5月頃から、私は、あるNPOで非常勤の労働相談員を体験してきました。非常勤と言いますが、要は無給のボランティアです(ボランティアとは言え、相談で受けた個別事案についての秘密は厳守する旨の誓約書に署名していますし、対外的には「非常勤スタッフ」という言い方をしますが……)。ここでは1日最大で数十件の相談電話とメールが殺到するそうで、そのどれもが深刻な相談ばかりです。

私ははじめ「長時間労働で死にそうだ」「残業代をもらえない」などという相談が来るのかと予想していました。しかし実際は「上司に暴行された」など、もはや会社による組織的な刑事事件というレベルのものから、慣れない職種への配置転換、家族を抱えての転勤などの悩み、無実の罪を着せられて懲戒解雇…など、通りいっぺんの知識では対応しにくい相談が寄せられています。

これらの相談に対応する相談員の数は、一桁前半です。その忙しさをご想像いただけるでしょう。

さて、私は守秘義務を負っているので、このNPOで見聞きしたことすべてを同人誌のネタにはできませんが、衝撃だったことが2つあります。

ひとつめ。

このNPOでは、一応ボランティア向けの研修が行われることになっています。しかし、私がボランティア登録をしたその日から、私に相談電話の対応をさせたのです!既刊同人誌の奥付で書きましたが、私には労働事件の当事者としての経験があり、法律に興味があります。しかしそれでも、いきなりナマ電話を取らせるというのは…。

困っている人に対して何もしないよりは、何かしたほうがいい。人の道として正しいことです。でも、あのやり方は、たとえるなら大出血している人を健康法のインストラクター(本職の方はすみません)のところに連れて行くようなものだと感じました。大出血している人は一刻も早く救急外来の外科専門医にみせるべきです。

弁護士は、他人のために報酬を得て法律事務を行うことができます。こと法律的な争いにかけては、弁護士か法律上もっとも制約の少ない職種です。労働組合は、労働組合法6条に基づき、会社にいつでも団体交渉を申し入れることができます。会社が正当な理由なく拒否することは、法律違反(不当労働行為)であり、制裁を受けます。しかし、団体交渉を始めることは会社にとっての義務であっても、妥結することは義務ではないので、まとまるとは限りません。

NPO(特定非営利活動法人)は、設立がかんたんでクリーンなイメージがありますが、他人の法的な争いに割って入ることは法律で認められていません(「非弁行為」、弁護士法72条)。労働トラブルについて働く人から相談を受けたNPOは、せいぜい一般的な知識を相談者に授けて弁護士への相談を勧めるか、労働組合への加入を勧めるか、くらいしかできないのです。

ふたつめ。

このNPOでは相談は何度でも無料です。電話とメールで手軽に相談できるのは大きな特徴です。しかし、相談を受けるスタッフのほとんどは──その情熱では決して他人に負けないものの──無資格者(弁護士、司法書士、特定社会保険労務士など、紛争に介入できる法的資格をもたない)です。

人生を左右するかもしれない大事件。それなのに、無料の相談窓口の、無資格者による回答で済ませようとする人の、何と多いことでしょうか!

「突然おそいかかった災難で、どこに相談してよいかわからなかった」とか、「深夜・早朝まで仕事をしているので、日中相談に行けない」、「いま生活するお金がないので、弁護士の相談料を払えない」…など、それぞれに理由はあるでしょう。しかし、メールや電話で手軽に尋ねたことには、手軽な回答しか返ってこないことは理解する必要があります。なぜなら、回答する側は、メールに書かれたこと、電話で話されたことだけを手がかりに回答しなければならないからです。書かれていないことを想定して、場合わけして丁寧に回答しようとすると膨大な手間がかかります。それに、長大な回答をもらっても、質問したほうは混乱してしまうでしょう。すると、どうしても手軽な回答にならざるを得ないのです。このことは、労働問題にくわしい弁護士の伊東良徳氏もブログで述べています

世の中には、高いお金をとるヤブ医者や、有料相談で誤った回答をする弁護士もいます。「お金を払えばいつでもよいサービスを得られる」とは限らないのが現実です。しかし「お金を払わず、手間もかけずによいサービスを得る」ことは──慈善事業や利益誘導でないかぎりは──不可能です。

いま不安にさいなまれ、苦しんでいる相談者に「お金を出してプロを雇え」とか「もっと頑張って調べろ」とは、私には申し上げづらいです。でも(NPOへの相談が一律にいけないとは言いませんが)目先の利益にまどわされて重大な選択を誤らないでほしい、と、切に思うのです。

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